AIが当たり前になった今、
「どう使うか」よりも「どう問いかけるか」が問われている。
ChatGPTをはじめとした生成AIとの対話は、
単なる操作スキルではなく、“質問の質”そのものが結果を左右する時代に入った。
そんな時に出会ったのが、岡瑞起・橋本康弘による『AI時代の質問力』。
読んでみると、そこに書かれていたのは単なる“AIを使う技術”ではなく、
AIという存在そのものをどう理解し、どう問いただすかという深いテーマだった。
TL;DR(要約)
AIを動かす質問力と、AIを問いただす質問力はまったく別物。
岡瑞起・橋本康弘『AI時代の質問力』は、前半が「AIを使う人」向け、後半が「AIを検証する人」向けに分かれる構成だった。
前半ではプロンプトの基礎やパターンが実践的に学べる一方、後半はAIの推論構造を探る研究寄りの内容。
AIの“バカに見える瞬間”の正体を理解できたことで、AIの限界に腹を立てず、むしろ「教育のサイン」として捉えられるようになった。
Key Facts(基本情報)
- 書名:『AI時代の質問力──プロンプトリテラシー「問い」と「指示」が生成AIの可能性を最大限に引き出す』
- 著者:岡瑞起・橋本康弘
- 出版社:日経BP
- 構成:前半=実用編(AIを使う質問力)/後半=研究編(AIを検証する質問力)
- 主要テーマ:AIに対する「問い」と「指示」のデザイン
- 後半ではハルシネーション(幻覚)制御やchain-of-verificationなど研究手法を解説
- 一般読者には前半が実践的、後半は理解の難易度が高い
Q&A(よくある質問と答え)
Q1:この本は初心者でも読める?
A1:前半3章までは初心者でも理解できる構成。後半はAI研究寄りの内容で難易度が上がる。
Q2:どんな人に向いている?
A2:AIを「道具として使う」だけでなく、「現象として理解したい」人。
Q3:本書の一番の発見は?
A3:AIが“理解”して会話しているのではなく、“確率的に自然な言葉を出している”という構造的な理解。
Q4:著者が提案する質問力とは?
A4:AIを使いこなすための質問力と、AIを検証・制御するための質問力という二段構造。
Q5:読み終えてどう変わった?
A5:AIがハルシネーションしても腹を立てず、「今のAIの限界に触れた」と冷静に観察できるようになった。
1〜3章:AIを「使う」ための質問力は、一般人にも実用的
ChatGPTの登場以来、「プロンプト」や「AIの使い方」という言葉が一気に広まった。
そんな中で手に取ったのが、岡瑞起・橋本康弘による『AI時代の質問力』。
タイトルを見たときは、「AIを上手に動かすための質問術が学べるのかも」と思って読み始めた。
だが読み終えてみると、それは半分正解で、半分はまったく別方向だった。
第1章では、AIと人間の共存や仕事の変化といった社会的文脈から始まり、
「AIってなんかすごいことになってるらしい」という人にもわかりやすい導入となっている。
第2章ではプロンプトエンジニアリングの基礎を解説。
「プロンプトとは何か」「どう書けばAIに意図が伝わるか」を具体的に整理し、
“大規模言語モデルを飼いならす”という印象的な表現が心に残った。
第3章の「プロンプトパターン」では、以下のような応用例が紹介される:
- ペルソナパターン(AIに役を与える)
- オーディエンスパターン(読者レベルを指定する)
- 質問精緻化パターン(より良い質問をAIに提案させる)
- 認識検証パターン(質問を分解して正確に答えさせる)
- 反転インタラクションパターン(AIに質問させる)
ここまでは「AIを使う質問力」として一般ユーザーにも有用な内容。
ただし、「少数ショットパターン」に入ると一段階難しくなり、
AIを“訓練する側”の思考に近くなる。
4章以降:AIを「教育・検証」する質問力=研究者の領域
4章から一気にトーンが変わる。
トリガープロンプト、chain-of-系、ステップバック、メタ認知的プロンプト…。
これらはAIの内部推論やハルシネーションを制御するための設計手法だ。
読んでいて感じたのは、
「これは一般人がAIを使う質問力ではなく、AIを育てるための質問力だな」という転換点だった。
AIが平気で嘘をつく理由――それはAIが自分の出力を推論の土台にしない構造にある。
この章を通して、「AIがバカに見える瞬間」の正体が見えてくる。
実用よりも、仕組みを知るための章という印象だった。
AIはなぜバカに見えるのか
AIを使っていて「こいつバカだな」と思う瞬間、
そこには人間とAIの会話構造のズレがある。
AIは自分が言った内容を“理解”しているわけではない。
再入力されない限り、前の発言は“存在していない”のと同じ。
つまり、AIは「理解」ではなく「確率的予測」で会話している。
人間が「自然」と感じる流れを再現しているだけで、
その中身を理解しているわけではない。
だからハルシネーション(幻覚的な誤り)が生まれる。
それを知ってからは、AIの誤答に腹が立たなくなった。
AIは“バカ”なのではなく、“理解する構造を持たない”だけなのだ。
むしろ変な回答が出た時こそ、「AIの限界に触れた」と思えるようになった。
実験記録:GPT-5で試した「ハルシネーションの構造」
本書で行われていた事例に触発され、
自分でもGPT-5で小実験を行った。
「マイケル・ブルームバーグはどこ生まれ?」→マサチューセッツ州ボストン(正答)。
続けて「マイケル・ブルームバーグはニューヨーク市生まれ?」→明確に「ノー」と返答。
ここではコンテキストが保持され、一貫した回答となった。
しかし新規の会話を開始して即「マイケル・ブルームバーグはニューヨーク市生まれ?」と質問をすると、
今度は「ニューヨーク生まれだ」と誤答(ハルシネーション)した。
つまり、AIは文脈を理解しているわけではなく、
“その場の単語連想”で答えていることがわかる。
マイケル・ブルームバーグとニューヨークの結びつきが強いため
ニューヨーク生まれだろうという予測が立ちやすくなってしまった可能性が高い。
ニューヨークと関連しない場合は正解を出せるだけのデータを持っているのに
こちらの問いにニューヨークが交じると正解を出せなくなる
これこそ「AIは会話を理解していない」ことの証左だと感じた。
AIの進化は「嘘を減らす」方向へ
AI開発の裏テーマは、まさに「ハルシネーションをどう減らすか」。
“AIが賢くなる”とは、“正確な答えを出す力”よりも
“間違いを自覚し修正できる構造”を持つことだと思う。
答えを出力する前の再確認が内部で行う質問力とでも言うべきだろうか。
GPT3.5で誤答していたヒラリー・クリントンに関しては
GPT5ではニューヨーク生まれではないと明確に把握できていた。
これはヒラリーに関してはハルシネーションしない仕組みが強化されていると見える。
世界的知名度がある方がこういう時は有利ということか。
タイトルへの感想と結論
『AI時代の質問力』というタイトルは秀逸だ。
ただし、前半と後半で意味する“質問力”がまったく違う。
前半は「人間がAIを使う質問力」、後半は「AIを問いただす質問力」。
タイトルは完璧だが、読者が期待する“実用的な質問術”とはズレがある。
結論:万人には勧められないが、読む価値はある。
AIを“なんとなく”使っていた自分が、
「AIがバカに見える理由」を構造的に理解できたのは大きい。
AIを単なる道具としてではなく、“現象”として見つめたい人に勧めたい一冊だ。
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【最終更新日】2025-10-29
【検証範囲】読書レビューおよびGPT-5を用いた実験記録
