冬の澄んだ空気のなか、落石防止工事で車道が閉ざされた日に、下宮から歩いて天空の鳥居を目指した。
夕日は人の気配とともに過ぎ去り、やがて静寂と夜景だけが残る。
観光地としての喧騒と、山の上に戻ってくる感覚。その両方を味わった一日の記録。
冬の天空の鳥居で夜景と静寂を独り占めした日|下宮から歩く登山記録
香川県観音寺市にある「天空の鳥居」。
写真で何度も見てきた場所だが、今回は実際に自分の足で登ってみることにした。
天空の鳥居へ。下宮から始まる静かな登山
向かったのは2025年12月10日。どうしても今月中に行っておきたかった。
なぜなら、10月20日から天空の鳥居に向かう道は落石防止工事で通行止めになっていたからだ。
徒歩でしか行けないなら、普段より観光客が少ないのではと考えた。

まずは下宮で参拝を済ませ、本宮を目指して歩き始める。
序盤は坂道としてきちんと整備されており、歩きやすい。
ただし油断は禁物で、早い段階から足にはじわじわと負荷がかかってくる。
しばらくすると、整備された道は終わり、山道らしい表情に変わる。
岩が多く、枯れ葉で足元が滑りそうになる場所もあり、思った以上に“登山”感がある。
すれ違う下山者の多くは手ぶらだった。リュックを背負っている人はほとんど見かけない。
モバイルバッテリーなど色々持ってきたが、スポットが一つで日帰りなら正直不要だったかもしれない。
機器は満充電、それで十分なことが多い。
鳥居まで500m、そして寄り道という選択
鳥居まで500mの看板。
ここまでは岩場が多かったが、そこからは土の山道を登る感覚になる。
途中には斉田社などの脇道もあったが、時間は17時近く。
夕日の時間は限られているため、今回は鳥居を優先して通過することにした。
しかし、もう一つ気になる脇道が現れる。「鼻ご岩」。
最初は通り過ぎかけたが、「100mほど」という案内を見て、行ってみようと思った。
鼻ご岩で出会った、誰もいない絶景

まず何より鼻ご岩へ続く道が幻想的だった。
まるでジブリに迷い込んだかのよう。
この道だけでも、鼻ご岩に行くことを選んで正解だったと思う。

雰囲気のある細道を抜けた先に広がっていたのは、海を見下ろす圧倒的な景色だった。
幻想的な通路を抜けて見えた夕日は美しかった。
夕日が海に映り、光が溶けるように伸びていく時間帯。
ここには観光客が誰もいなかった。鳥居を目指す人たちは帰り道で寄るのだろうか。
それとも、そもそも存在に気づかないのか。
理由は分からないが、この景色を独り占めできたことは確かだった。
鼻ご岩という名前もどこかダサ地味で、「映え」目的の人が寄りつかなさそうなのもいい。
写真を撮り、水を飲んで少し休憩し、再び元の道へ戻った。
きつさが増す階段と、天空の鳥居
天空の鳥居が近づくにつれ、道は土から石の階段へと変わる。
これがとにかくきつい。
坂道は足を前に出すだけでも進めるが、階段は足を交互にしっかり上げなければならない。
手すりにつかまりながら、一段一段登る。
足は限界に近いが、鳥居周辺には観光客が多く、立ち止まるのも気が引ける。
気合で登り切った。
夕日と観光客、そして少しの違和感
夕日の時間帯だったが、鳥居目当ての観光客は多い。

写真を撮りたかったが、人がはけるのを待っていると夕日は沈んでしまった。
夕暮れの景色も十分に美しいが、少し惜しかった。
ふと他のグループから「ガラガラ鳴ってるけど、奥に神社あるみたい」。
そんな会話が聞こえてきた。
鳥居はインスタ映えのためにあるわけではない。
神社があるから鳥居がある。その当たり前のことを、心の中でそっと突っ込む。

日が沈み、人が去ったあと
17時15分を過ぎる頃には、観光客はほとんどいなくなった。
残っていたカップルに写真撮影を頼まれ、少しぎこちないながらもシャッターを切る。
縦横で写真を撮ったが横写真多めにしてしまい、後でSNSに使うなら縦多めがよかったかなと反省するが、
二人で写った思い出の写真を残すという最低限の役目は果たせただろう。
やがてそのカップルも下山し、鳥居には自分一人だけが残った。
落石防止工事により車で本宮へ行けない、ある意味でレアな期間。
日没後に徒歩で来ようとする人はそうそういない。
夕方は観光客が賑わうこの場所で、完全に独り占めの時間が始まった。
夜の天空の鳥居と、静寂の感覚
風が冷たくなり、リュックに入れていたパフテックのコンパクトジャケットを着る。
リュックを担いできて良かったと思う瞬間だ。
ベンチに座り、道の駅で買っていたパンを食べていると、階段の方からライトが見えた。
地元と思われるおじいさんが、一人で参拝に来ていた。
観光客がいなくなった時間を選んで来たのか、あるいは見回りついでだったのか。
いずれにせよ、観光目的ではないこの場所の本来の使われ方を見た気がした。
その後は誰も来ない。
静けさが支配する。
夜景が美しい。
最初は手前の観音寺市の灯りに目がいくが、次第に遠くの光へと意識が向かう。
天空の鳥居から見える景色はただの夜景ではなく、四国の地形、海沿いに沿って連なる灯りは、光の川のように見えた。

感覚が研ぎ澄まされる時間
持ってきた本を少し読む。
鳥居には外灯があり、ライトをつけなくても完全な闇にならない。
寒さですべては読めないが、それでいい。
風で枯れ葉が足元を転がる。
その音がはっきりと聞こえるほど、感覚が研ぎ澄まされている。
落ち葉の音、風の音。
こんなに小さな音を感じ取れるほど、この場所では自分が静かになっている。
下山、そして光のありがたさ
十分に時間を過ごし、改めて参拝をしてから下山を始める。
夜の山道は本当に暗い。
ネックライトとフックライトがなければ、スマホ片手での下山になり、岩場ではかなり危険だったと思う。
登りは鼻ご岩に寄り道含めて1時間ほどだったが、下山は寄り道なしで1時間20分かかった。
身体は温まり、途中からイヤーマフや手袋がいらないくらいになった。
試しにライトを消してみると完全な闇の視界。
ライトのありがたさを強く感じた。
昔は提灯やろうそくで歩いていたのだと思うと、現代の装備の偉大さを実感する。
天空の鳥居は「夜」も素晴らしい
駐車場に戻ると、下宮周辺は明るく照らされていた。
最後に下宮でもう一度参拝し、天空の鳥居を後にする。
夜の天空の鳥居は人が去り、音が消え、感覚が戻ってくる時間。
もし訪れるなら、日没後も行って損はない場所だ。
落石防止工事が終われば車で夜景を見に来る人もいるだろう。
だからこそ、この日は夜景を独り占めできたこの瞬間が、より特別に感じられた。
